キミに送るエール
まつ
「セイ、カイロ持って来た?」
「まかせろ☆ むしろあったかインナー借りてきた」
「あったかインナー!(爆笑)」
息が白いどころか、視界も真っ白に染まりそうな雪の早朝。
小さな駅舎の入り口にあるベンチで待ち合わせた二人は、いそいそと身支度を整える。
「始発の前ってこんなに人が居ないモンなんだね」
「ねー」
大きなバッグに仕舞い込んでいた制服を装備して、お互いの目でおかしなところを直して行く。
着替え終わり、気になる髪の流れを手ぐしで整えながら正面の壁に備え付けられた大きな時計を見つめていると、最後の仕上げとばかりにバッグからロングマフラーを取り出したミドリがお互いの肩にそれを巻きつけ、器用にリボン結びにして行く。
あまりの出来栄えにまた二人で爆笑して………あとは時が来るのを待つばかりだ。
「お嬢ちゃんたち、今日センター試験じゃないの?」
見知らぬおばあさんからの声でミドリが目を覚ました時、隣に座るセイもまた一緒に眠りこけていたようだ。
「ちょっまさかもう行っちゃったとか!?」
「いや先輩たちのことだからギリギリに駆け込む…はず」
若干青ざめた二人の耳に爆走する足音が届き、表情を安堵のソレへと変えた二人は、同じ制服に身を包んだ見知った一団に立ちはだかるようベンチから移動する。
「ん?」
「…何?」
「「センパーイ! 試験頑張ってー!」」
高1にしては高めだと、いつもからかわれる声をさらに高くして。
やりすぎなくらいの笑顔で声援を送れば、一番最初に気付いたミカ先輩が盛大に噴き出して…
「ちょっ!」
「もしかしてミドリ!?」
「はーい! こっちはセイでーす」
「なにこれ!ちょっ…!」
「かわいい後輩から、先輩たちへの愛の応援でーす」
「愛っ! ちょっ…! 我が落研には男の後輩しか居ないんだけどっ!」
「だって先輩が男の娘スキだって毎日毎日うるさいから…テヘ☆」
「いやああああ待って電車マジ待って写メるから! いやもういっそ試験会場までついておいで!」
「うん。とりあえずオンダは落ち着こうか」
遠い目をした駅員さんに「あと1分で電車出ちゃうよー」などと言われつつ。
大騒ぎをしながらちゃっかり全員が写メを撮って、先輩たちは改札の向こうに走り去る。
「ミッションコンプリート☆」
巻き付けていたロングマフラーを少し緩めて。
自撮りした写メを先輩方に一斉メールをした二人は、被っていたウィッグを勢い良く剥ぎ取りながら、清々しい笑顔で駅を後にした。
end