Choose me! 真堀橙子

私は、自分が一番綺麗に見える角度でにっこり笑う。
いい加減早くしてほしい。
あんまり長くココに立ってると、ライトでお肌も髪も痛んじゃいそう。
ココにいる子たちは皆、見た目で売ってる子なんだから、
そういうトコ、もうちょっと気を使ってほしいわよね。

きっと、選ばれるのは私。
だって斜向かいのあの子は、ちょっと顔が大きいと思うし。
その隣の子はまあまあ可愛いけど、
スタイル的には私のほうが勝ってる。
あっちの子なんて……冗談じゃない。脚が短すぎるわ。
ま、それぞれセールスポイントは違うわけだけど、
よく言えば個性的、悪く言えば不細工、って子は
相当歪んだクライアントにしか受け入れられないと思うのよね。
正直、そういうクライアントのところには、私は行きたくないわ。

だって、私は非の打ち所がない、パーフェクトな女だもの。
今流行の服だって、この中じゃ私が一番似合うし。
髪の色も無難だから、イメージを損なわずに長く働けると思うのよ。
ああ、でも最近はちょっと幼い感じの子が人気なのかしらね。
ほっぺたがふっくらした、目の丸い子とか……

……あ、右の方にいるわね、丁度。

いかにも害がないって顔して、ピンクのチークが濃い目で。
どうせ育っちゃったらすぐポイってされるのよ、ああいうタイプは。
それでも人気なのが、ちょっとムカツク。
だってあ・き・ら・か・に、私が一番美人なのに。
美人が一番、ってわけじゃないのがこの業界のつまんないところよね。


あーあ、退屈であくびが出ちゃう。
そんな間抜けな顔見せられないから、我慢しないと。
ホント待ち時間長いわよね。
厳正なる審査のための選考時間
……だったらいいけど、最初から誰にするか前もって決めちゃってる、
出来レースってやつも多いらしいし。
じゃあなんのために私ここにいるのよ、って思わないでもないけど
……あらかじめ決められてた子じゃなくて、やっぱり私を選ぶ!
なーんてことがあるかもしれないから、
チャンスの欠片にはしがみついておこうと思うの。
そういう根性って、ちょっとかっこ悪くても大切だったりするでしょ?

そうねぇ、私が選ばれたら……まず問題は衣装ね。
ひらひらした格好は、あんまり好きじゃないの。
出来れば70年代風の、鮮やかでかっこいい服が着たいわ。
そもそも私のプロポーションだと、そういうのが似合うと思うし。
ま、私くらいになれば、どんな服でも着れちゃうけどね。
正直クライアントの趣味にはおとなしく従わなきゃいけないと
わかってても、たまには自分の意見をプッシュしてみたいところだわ。
そんなことしたら、クビになっちゃうけど。

あ! やっと来たわ。
今回のクライアントは……ふーん。お金ありそうね。いいかも。
でもちょっと若いかな。
あんまり若い人だと、私の魅力がいまいち通じないこともあるから
……どうかしら。
でも、私を。
私を、選んで!
運命を指し示す指が、ゆっくりと上がって……

「ママ、この子がいい!」
「これ? こっちの、お洋服たくさんついてる方じゃなくて?」
「うん、これ! これにするの!」
「はいはい、わかったわ。大事にするのよ」
「うん!」

……残念。
やっぱり、若い人はかわいらしいタイプが好きみたいね。
ミルク飲みタイプなんて、三年持てばいいほうでしょ?
その点私なんて十年はいけるのに。自信あるのに。
……いいの、私の魅力をわかってくれる人は、
私のことを大事にしてくれる人でもある。
わがまま言わないで、おとなしくしてるわ。

でもね、正直ちょっとは寂しいのよ。
お金持ちで、お洋服もバッグも靴もたくさん買ってくれて、
出来れば箱から出して、なおかつ丁寧に大事にしてくれる

……そんなクライアント、今すぐ私を迎えに来て頂戴!
戻る